約 3,152,026 件
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/207.html
クレイトリー家の伝説 バロス=クル 作 登場人物 シオフォン ── 帝都民の男、24歳、泥棒 ニリム ── ボズマーの男、20歳、泥棒 シラヌス・クレイトリー ── 帝都民、51歳、商人 ドミニーシャ・クレイトリー ── シラヌスの妻、40歳 エルヴァ・クレイトリー ── 夫婦の娘、16歳 ミニスティズ・クレイトリー ── 夫婦の息子、11歳 舞台:シェイディンハルにある、名高いクレイトリー家の亡霊屋敷、その1階と2階。劇の大部分は2階で進行するため、二段になった舞台が必要。 舞台上は暗闇。 何かがきしむ音と、階段の足音。男の声が聞こえるが、何も見えない。 上方から呼びかける声。 エルヴァ(声のみ) ねえ? 誰か下にいるの? ミニスティズ(声のみ) パパを起こそうか? エルヴァ(声のみ) ううん…… 気のせいだったのかも…… 2階にランタンの灯りがつき、細身の少女エルヴァが、そわそわしながら舞台上手の階段を下りてくる。 ランタンの灯りで、そこは埃だらけの古い家の2階だとわかる。舞台右手に、3階への階段と1階への階段。舞台左手に、火の気のない石造りの暖炉。家具はテーブル、鍵のかかった収納箱、衣装戸棚。 ミニスティズ(声のみ) エルヴァ、何してるの? エルヴァ 本当に誰もいないか確かめてるのよ…… 戻って寝てなさい、ミニスティズ。 少女がテーブルのところにさしかかったとき、ボズマーの男ニリムが彼女の背後、視界の外から、うまく光を避けながらそろりと近づく。硬い木の床に足音を立てずに近寄る男。男の気配に気付かない少女。 彼がもう少しで彼女に触れるというときに、階下から突然、何かが崩れる音がする。ボズマーの男は飛び上がり、テーブルの陰に戻って隠れる。 少女は階下からの音に気付かず、ニリムはテーブルの後ろから彼女をうかがう。 ミニスティズ(声のみ) 何か見つけた? エルヴァ いいえ。多分気のせいだったのよ、でも一応、1階も見てくる。 ミニスティズ(声のみ) 火はついてる? 寒いんだけど…… エルヴァはもう長い間火の焚かれた形跡のない暖炉を見る。ニリムも同じところを見る。 エルヴァ もちろん、火はついてるわよ。ぱちぱち音がしてるでしょ? ミニスティズ(声のみ) そうみたいだね…… 突然、エルヴァが観客には聞こえない物音を聞いたかのように驚いて飛び上がる。そして、階段から、1階のほうをうかがう。 エルヴァ 誰かいるの? エルヴァはランタンを前にかざしながら、階段を下りる。帝都民シオフォンが盗品の入った大きな袋を抱え、ランタンを手に持って彼女とすれ違いながら階段を登っていくが、エルヴァはそれに気付かない。 シオフォン 悪いな、お嬢さん。ちょっと物色させてもらうよ。 エルヴァは不安そうに階段を下り続ける。持っているランタンの灯りでやっと彼女の姿が見える。彼女は1階の、泥棒に荒らされた天井の低い部屋を見てまわり、上の階で話が進んでいる間もその行動を続ける。 シオフォンのランタンの灯りが、2階の様子を照らし出す。 シオフォン なんで隠れてるんだよ、ニリム? 言ったろ、やつらは俺たちのことが見えないし、声も聞こえないんだよ。 ニリムは素直にテーブルの陰から出てくる。 ニリム あいつらが幽霊だなんて信じられないよ。生きてる人間とかわらないじゃないか。 シオフォン だから噂になって気味悪がられてるのさ。でも、何もしてきやしないよ。幽霊らしく、繰り返し、過去を生きてるだけだからな。 ニリム 殺される前の、最後の夜にやってたことをだろ。 シオフォン そんなこと考えるのはよせ、恐ろしくなるだけだ。それより、1階にあったものは全部持ってきたぞ── 銀の燭台、絹、黄金まであった…… そっちは何をみつけた? ニリムは空っぽの袋を見せる。 ニリム ごめん、シオフォン、これから始めようと思って…… シオフォン じゃあ、早くそこの箱を開けろよ。そのためにお前をつれてきたんだから。 ニリム そうだった。こういう技術は俺の担当、お前の担当は計画を立てることと…… 道具をそろえること、だよな。来る前にランタンの油は補充したか? 暗闇じゃ仕事ができないぞ…… シオフォン 心配するなよ、ニリム。絶対大丈夫さ。びくびくしなくていいって。 小さな男の子、ミニスティズが階段のところに現れ、ニリムは飛び上がる。少年は音もなくゆっくりと暖炉のほうへ行き、まるで火を大きくしているように、まきをくべたり、燃えさしを火箸でつついたりする手振りをするが、実際には、火も、まきも、火箸も無い。 シオフォン なあ、時間はくさるほどあるんだ、安心しろよ。誰もこの家には近づこうとしないんだ。もし窓からランタンの灯りが見えても、幽霊だと思うだけさ。 ニリムは収納箱の錠前をはずしにかかる。その間、シオフォンは衣装戸棚を開け、中身を物色する。中にあるのは、ほとんどがぼろぼろになった布きれ。 ニリムは少年が気になって集中できない。 ニリム なあ、シオフォン、ここの家族が死んだのって何年前だっけ? シオフォン 5年ほど前かな。なんでそんなこと聞くんだ? ニリム 話のタネにしてるだけさ。 彼らが話している間に、エルヴァがとうとう階下の小さな部屋を見回るのをやめ、正面玄関の鍵をかけるようなしぐさをする。 シオフォン その話はまだお前にしてなかったっけ? ニリム ああ、ただ、幽霊しか住んでいない家があるぜ、って言っただけだよ。聞いたときは冗談かと思ったよ。 シオフォン 冗談でも何でもないぞ、相棒。5年前、クレイトリー一家がここに住んでた。いい人たちだった。お前が見たのは、娘のエルヴァと息子のミニスティズだよ。両親はシラヌスとドミニーシャって名前だ、確か。 ニリムは収納箱の鍵を開けることに成功し、中を物色し始める。その間、ミニスティズは充分に温まったかのように、暖炉から離れ、階下への階段のほうへ行く。 ミニスティズ おい! 少年の声で、ニリム、シオフォン、エルヴァの全員が飛び上がる。 エルヴァ どうして起きてるの? 今から地下室も見てくるわ。 ミニスティズ ここで待ってるよ。 ニリム それでどうなったんだ? シオフォン ああ、みんなずたずたにされ、半分食われちまったんだ。誰がやったのかはわかってない。ただ、噂では…… エルヴァは地下室への扉を開け、入っていく。1階の灯りが消える。ミニスティズは階段の上で、小さな声で鼻歌を歌いながらじっと待っている。 ニリム 噂って? シオフォンは衣装戸棚の中身に見切りをつけ、収納箱中の金をあさっているニリムに手を貸す。 シオフォン いい稼ぎになりそうじゃないか、なあ? ああ、噂の話だったな。ドミニーシャがシラヌスと結婚する前、魔女だったっていうんだよ。でも、結婚してからは魔女のやるようなことは全部やめて、普通のいい妻、いい母親になっちまったんだ。それを、他の魔女たちは良く思わなかった。それで、魔女たちはドミニーシャを見つけ出し、夜中に何らかの怪物をここへ送り込んだ。悪夢みたいな、恐ろしい怪物をな。 ミニスティズ エルヴァ? エルヴァってば、そんなに長いこと何してるの? ニリム うわ、目の前でこいつらが殺されるところを見ちゃうんじゃないか? ミニスティズ エルヴァ! シラヌス(声のみ) 下で何やってるんだ? 遊ぶのをやめて、早く寝なさい。 ミニスティズ パパ! ミニスティズは怯えた様子で階上への階段へと走る。途中、ニリムにぶつかり、ニリムは倒れる。少年は気付かず、寝室のある3階の暗闇へと階段を上り、舞台から去る。 シオフォン 大丈夫か? ニリムは青い顔で飛び上がる。 ニリム そんなこと、どうでもいい! あの子、俺に当たったぞ!? 幽霊なのに俺に触れた!? シオフォン そうだな…… もちろん、触れることできるさ。そういう幽霊もいるらしい。地下の納骨堂を守ってる先祖の霊とか、ダガーフォールの王の幽霊とか、聞いたことあるだろ。そういうやつらが生きてる人間に触れられなきゃ、何の役に立つんだよ? なんでそんなに驚いてるんだ? わかった、体をすり抜けていくと思ってたんだろ。 ニリム そうだよ! 家の主人、シラヌスが、用心しながら階段を下りてくる。 ドミニーシャ(声のみ) 待ってよ、シラヌス! 私たちも一緒に行くわ! シラヌス 待て、ここは暗いから。今、灯りをつける。 シラヌスは火の無い暖炉へ行き、手を前に突き出す。突然、彼の手の中に火のついた松明が出現する。ニリムは怯えて後ずさる。 ニリム 火だ! 間違いなく、火だぞ! シラヌス 降りておいで、大丈夫みたいだ。 ミニスティズが母、ドミニーシャを連れて階段を下り、シラヌスのところへ来る。 シオフォン なんでそんなに怯えてるんだよ、ニリム。がっかりだな。お前が幽霊なんかを怖がるやつだとは思わなかった。 シオフォンは階上への階段へ向かう。 ニリム どこ行くんだ? シオフォン 上の部屋も見てみないとな。 ニリム もういいんじゃねぇか? ニリムは家族3人が、松明を持ったシラヌスを先頭に1階へ下りてゆくのを見る。 シラヌス エルヴァ? 返事しなさい、エルヴァ。 シオフォン ほらな、見ただろ? 幽霊が嫌いなら、3階に来いよ。幽霊は4人とも下に行っちまったんだから。 シオフォンは階段を上り、舞台から消える。ニリムは階段の上に立ち、階下の家族を見下ろす。3人はエルヴァがしていたように1階の部屋を見て回り、地下室の扉へ近づく。 ニリム 4人とも…… だって? シラヌスが地下室への扉を開ける。 シラヌス エルヴァ? 地下室で何してるんだい? ドミニーシャ あの子、いた? ニリム 4人ともだって、シオフォン? シラヌス ああ…… そこに人影が見える…… おーい。 ニリム 幽霊が5人いたらどうするんだよ、シオフォン!? シラヌスが松明を地下室に差し入れると、急に松明の火が消える。1階は闇に包まれる。 ミニスティズ、ドミニーシャ、そしてシラヌスの叫び声。だが、何が起こっているのかは見えない。 ニリムは狂乱しそうになり、一緒になって叫び始める。シオフォンが3階から駆け下りてくる。 シオフォン どうした!? ニリム 幽霊が5人いたとしたらどうする? 男と、嫁さんと、娘と、息子と…… そいつらを殺したやつも入れて、5人いたら!? シオフォン あいつらを殺したやつが? ニリム それで、そいつも人間に触れる幽霊だったらどうするんだよ!? あの男の子みたいに! 暗闇の1階から、ドアがきしみながら開く音。しかし、何も見えない。そして、重く、かぎ爪のある足が床を歩くような音。一歩一歩、階段に近づいてくる。 シオフォン そんなに慌てるって。もしそいつが俺たちに触れたとして、何かしてくるはずないだろ? 他の幽霊どもは、俺たちがいることに気付きもしなかったじゃないか。 シオフォンのランタンが少し暗くなり、彼は注意ぶかく火の大きさを調節する。 ニリム もし…… もしも、そいつが幽霊じゃなかったらどうする、シオフォン。あの家族を殺したそいつが、まだ生きていて…… 5年前から何も食ってなかったとしたら…… 巨大な足音は、一段一段、ゆっくりと階段を上ってくるが、その主の姿は見えない。ニリムは、シオフォンがいくら調節してもランタンの灯りが小さくなってゆくことに気付く。 ニリム お前、油を足したって言ったじゃないか! 灯りが完全に消え、舞台が暗闇に包まれる。 ニリム ランプの油は絶対大丈夫だって言ったろ! さらに足音が聞こえ、恐ろしい、身の毛もよだつような遠吠え。2人の男の叫び声。 幕 物語(戯曲) 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/45.html
ペラギウスの乱心 サシーンズ 著 第三期119年、叔父に当たるアンティオカス一世による華々しい統治の末期に、タムリエル全土の皇帝となるべく、ウェイレスト王族の王子、ソアリズ・ペラギウス・セプティムは誕生した。王者マグナスはアンティオカス帝お気に入りの弟であったため、ペラギウスが誕生する以前からウェイレスト王族は優遇されていた。 ペラギウスが生まれてからの10年間は国自体が混乱の渦に巻き込まれていたため、彼の乱心がいつ頃表面化したかは定かではない。ペラギウスが1歳を越えた頃、アンティオカス帝が崩御したため、万人が歓呼するなか、娘のキンタイラが玉座を継承した。キンタイラ二世はペラギウスの従姉妹に当たり、熟達した神秘者であるとともに魔法使いでもあった。もしこの時、彼女に未来を覗き見る手段があったとしたら、確実に王宮を後にしたであろう。 レッド・ダイヤモンド戦争の戦記は数多くの戦史に記載されているが、大多数の歴史学者が認めるように、キンタイラ二世の統治はペラギウスの従兄弟であるユリエル、そして彼の母親ポテマ、通称「ソリテゥードの狼の女王」の権力によって横領されていた。即位から1年後、キンタイラはグレンポイントにてわなにはめられ、帝都地下牢に投獄された。 その後ユリエル王子がユリエル三世として玉座を得たため、タムリエル全土が戦乱に突入した。特に囚われの身となっている女帝が居るハイ・ロックでは、ひと際激しい戦いが繰り広げられた。ペラギウスの父、王者マグナスは兄弟のセフォラスと同盟を組み、権力を強奪した皇帝に抗ったが、この行為がユリエル三世、および女王ポテマの憤怒をウェイレスト王族に向けさせた。ペラギウスは母ユセイラや兄弟達とともにバルフィエラ島へと落ち延びた。ユセイラは元々ディレニ家系の出身であり、今なおディレニ家の屋敷がこの古島に存在する。 幸いにも、バルフィエラ島でのペラギウスの幼少期に関する資料は世話人や訪問者によって書き残されている。彼を目にした人々は皆、スポーツや魔法や音楽に興味を持った、容姿端麗で魅力のある少年と表現している。訪れた外交家たちのお世辞を差し引いたとしても、どちらかと言えばペラギウスはセプティム王朝の将来への祝福であるように思われた。 ペラギウスが8歳の時、イチダグの戦においてセフォラスがユリエル三世を破り、皇帝セフォラス一世を自称した。その後の10年間、彼はポテマとの戦いに明け暮れた。ペラギウスの初陣は、ポテマの死によって終戦をもたらしたソリチュード攻城戦であった。セフォラスは感謝の念を込めてペラギウスをソリチュードの玉座に据えた。 ソリチュードの王者として、ペラギウスの奇行が目立ち始めた。ペラギウスは皇帝お気に入りの甥であったため、ソリチュードを訪れる外交家の中で彼を批判する者は少なかった。統治の最初の2年間は、異様な体重の増減が非常に目立った。玉座に就いてから4ヶ月後、エボンハートより訪れた外交家はペラギウスを「強壮かつ寛大な心の持ち主であり、その心が大きすぎるが故に腰周りまで膨らんでいる」と表現している。しかし、その5ヶ月後に訪問したファーストホールドの王女は、兄に宛てた手紙の中でこのように書き記している。「王に手を取られたときは、まるで骸骨につかまれたかのような感触がありました。ペラギウス王は実に衰弱しきっています」 ソリチュード攻城戦から3年後、セフォラスは未婚のまま、子を持たず没した。生存する唯一の兄弟として、ペラギウスの父マグナスはウェイレストの玉座を離れ、皇帝マグナス一世として帝都にその身を移した。マグナスは老齢であり、またペラギウスが生存する唯一の子であったため、タムリエルの民は皆センチネルに注目した。この頃にはすでにペラギウスの奇行は悪名高く知れ渡っていた。 センチネルの王者としての彼に関する伝説は数多くあるが、実際に詳細を書き記した伝記は少数にとどまる。ペラギウスはシルヴェナールの王子や王女を彼の部屋で監禁し、無署名の宣戦布告書が扉の下から差し入れられるまで開放しなかったことがある。また、彼が祝祭の演説中に服を脱ぎ捨てた時は、相談役達もその行動に見入っていた。後に、ペラギウスはマグナスの命令により、古くからのダークエルフ貴族の女子相続人である、美しきカタリア・ラシムと結婚した。 ダークエルフと結婚したノルドの王者が好かれることはあまりない。大多数の学者はこの婚姻に関して2つの理由を挙げている。マグナスはラシム族が属するエボンハートとの関係を強固にしようとしていた。エボンハートの隣人であるモルンホールドは歴史的に当初からの帝都同盟国であり、バレンジア女王はレッド・ダイヤモンド戦争において数多くの戦いに勝利している。エモンハートがユリエル三世やポテマを援助していた秘密は筒抜けであった。 もう一方の理由は、前記より個人的である。カタリアはその美貌と共に鋭い外交家でもあった。そのため、この世にペラギウスの乱心を隠しおおせる者がいるとしたら、それは彼女のみである。 栽培の月8日、第三期145年、マグナス一世は就寝中、静かに息を引き取った。ペラギウスの妹であるジョレスがソリチュードの玉座を引き継ぎ、ペラギウスとカタリアは帝都へ赴き、タムリエルの皇帝と女帝として戴冠した。噂では王冠がペラギウスの頭上に載せられた時、彼は気を失ったと言われているが、カタリアが支えたため玉座に近かったごく一部の者しか目にしていなかった。多くのペラギウスに関する物語同様、この一件も確認できていない。 ペラギウス三世は決して真にタムリエルを支配してはいなかった。すべての決定はカタリア、および元老院によって下され、彼らはペラギウスが皆を辱めるようなことがないように務めた。このような状態ではあったが、ペラギウス三世が統治を行った物語は存在する。 一説によると、ブラックローズからアルゴニアの大使が宮廷を訪れた際、ペラギウスはアルゴニアンの自然言語であるうめき声やキーキー声のみでの会話をせがんだと言われている。 ペラギウスは清潔さに心を奪われていたことでも知られている。早朝から始まる帝都の王宮みがきの音で目覚めたと後に語った招待客も多い。ペラギウスが召使いの作業を視察した際、さらに仕事を与えようとして突然床に排便したという伝説は信ぴょう性の薄い話である。 ペラギウスが実際に訪問者に噛み付いたり攻撃を行い始めた時点で、彼を私設養育院へ送ることが決まった。ペラギウスが玉座に座ってから2年、カタリアの摂政が宣言された。以後6年間、皇帝は様々な施設や養育院に滞在した。 帝都の裏切り者達は、この期間に関して様々な嘘を広めている。ペラギウスに施されたと実しやかにささやかれているおぞましい実験や拷問の噂は、事実として受け入れられ始めている。令夫人カタリアは、皇帝が送り出された直後に懐妊した。そのため、不貞の噂や、陰謀によって正気である皇帝を幽閉したなどの馬鹿げた噂まで乱れ飛んだ。結果、カタリアは夫の密室を訪れた後に妊娠したことを示した。忠臣としては、他に証拠がないことから女帝の証言を受け入れざるを得ない。ユリエル四世として永く統治を行うであろう彼女の第二子は、配偶しているラリエイトとの間にもうけた子であることは公的に認知されている。 ベトニイ島のキナレス神殿にて、薄明の月の夜半、個室の中で些細な風邪からペラギウス三世は34年間の生涯を閉じた。カタリア一世はペラギウスとの間にもうけた唯一の子、カシンダーに皇位を譲るまで、その後46年間の統治を行った。 ペラギウスの乱心的な行動は、逆に市民の間に彼の生と死に対しての愛しさを覚えさせた。定かではないが、彼の命日とされる薄明の月の2日は(記録があいまいなため)「正気を失ったペラギウス」の日として祝われ、この日は様々な愚行が勧められている。よって、セプティム王朝の歴史の中で、最も好ましくない皇帝が最も有名になったと言えるであろう。 歴史・伝記 赤3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/134.html
サンクレ・トールの戦い 第二紀852年、ノルド、およびブレトンの同盟軍はシロディールの国境を侵し、ジェラール山地の主要な峠と集落を占領した。冬の本部をサンクレ・トールに置き、ノルド─ブレトンの同盟軍は、王者クーレケインの新将軍タロスに、彼らの堅牢な山を攻めてみろと挑発した。 将軍タロスが真冬に兵を集め、サンクレ・トールを襲うために行進していると知ったとき、彼らは高揚した。サンクレ・トールは堅固であった。要塞は下の街を見下ろす高い絶壁の上にあり、高山の盆地に抱かれ、切り立っていてまずもって下りることの難しい崖を背にしている。 シロディール軍は小さく、訓練と装備は不十分で、食料も不足しており、つまり冬の戦役の準備ができていなかった。ぼろぼろの部隊が要塞の下の低地に集まったとき、ノルド─ブレトン同盟軍は、敵が自ら彼らの罠にはまりにきたと確信した。 要塞は前面によじ登るのが困難な絶壁と、後ろにはこちらもまた滑りおりることが困難な高地で守られているだけでなく、魔法によって、要塞の入り口を山々の盆地にある大きな湖に見せかける形で隠されていた。それ故、ノルド─ブレトン同盟軍は少人数の兵隊を要塞の防衛に残して出発し、凍える、空腹なシロディール軍を攻撃し押し潰すため、眼下の通路を下った。彼らは将軍タロスの軍を破り、圧倒し、皆殺しにすることができるものだと信じ、春に行われるシロディール・ハートランドへの進軍を妨げるものを残さないつもりであった。 これによって、将軍タロスはノルド─ブレトン同盟軍を、彼らの破滅へと誘き寄せた。 弱い部隊を低地に残して防衛部隊を誘い出し、将軍タロスの部隊はサンクレ・トールの要塞の裏の登れないと言われている高地から降下し、そして魔法で隠されていると言われている入り口から内部へと忍び込んだ。この驚くべき快挙は、要塞の裏の高地にある目立たない山道の存在、および幻想の湖面の下にある要塞の入り口の秘密を明かした、1人の名もなき裏切り者、ブレトンから寝返った妖術師のおかげである。 低地のシロディール軍がノルド─ブレトンの突撃隊に対して必死の防衛戦を戦う中、将軍タロスと彼の部下は要塞に侵入し、わずかな防衛軍を一蹴し、ノルド─ブレトンの貴族や将軍たちを捕らえ、彼らに要塞と軍の放棄を強要した。混乱し、戦意を喪失したノルドの捕虜たちは即座に、策略に長けたハイ・ロック妖術師の貴族社会やハートランド征服への行きすぎた夢を疑い、同盟を放棄し、タイバー・セプティムへの忠誠を誓った。スカイリムの将軍たちはタイバー・セプティムの軍の一兵卒となり、ハイ・ロック魔闘士の上層部は即座に処刑され、ブレトンの捕虜たちは投獄されるか奴隷として売られた。 これが一致団結して行われ、失敗に終わったシロディール侵略である。将軍タロスの軍がノルドの熟練部隊によって膨れ上がり、後に続く将軍タロスの軍事行動によって、コロヴィアとニベンをシロディール帝都の中核に統合することに重要な役割を果たし、最終的には将軍タロスの皇帝タイバー・セプティムとしての戴冠に結実する。 歴史家はタイバー・セプティムの、固められた山の要塞を真冬に攻撃する戦術の大胆不敵さに驚嘆する。後にタイバー・セプティムは、彼の圧倒的な障害に対する強固な意志は、レマン三世の墓の中の王者のアミュレットの神聖な予言に起因すると考えていた。 若き日のタロスは実際に、彼自身が盟約の太古の聖なる象徴を発掘すると宿命付けられていたのかもしれない。あるいは、タムリエルを第3帝都の高度な文明へ導くという信念によって突き動かされていたのかもしれない。たとえそうだったとしても、勝ち目のない戦いに挑み、決定的な軍事的大勝利を収めた行動力と才能への称賛を減じるべきではない。 メインクエスト関連 歴史・伝記 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/192.html
タララ王女の謎 第1巻 メラ・リキス 著 時は第三紀405年。ブレトンのカムローン王国の建国千年の祝典での出来事である。すべての大通りや狭い小道に、様々な金と紫の旗が掲げられた。非常に簡素なものや王家の紋章が印されたもの、王の臣下の公国や公爵位の紋章が印されたものもあった。大小の広場では楽隊が音楽を奏で、通りや角で異国情緒溢れる新進の大道芸人たちが芸を披露していた。レッドガードの蛇使いや、カジートの曲芸、本物の魔力を持つ手品師。もっとも、手品師たちの見せるきらびやかな芸は、たとえ本当の魔術でなくても見るものに感銘を与えた。 カムローン男性市民の注目を一身に集めたもの、それは「美の行進」であった。一千人もの麗しく若い女性たちが、挑発的な衣装に身をつつみ、セシエテ神殿から王宮までの大通りを踊りながら練り歩いていた。男たちは皆互いに押し合い、よく見えるように首を伸ばし、お気に入りの女性を見つけようとした。その女性たちが売春婦であることは一目瞭然で、このあと夜には「花祭り」が待ち構えていた。その祭典で彼女たちはより親密な「お仕事」をこなすのだ。 ジーナは絹と花びらでところどころ覆われたすらりとした曲線美と亜麻色の巻き毛で、多くの男性の視線を集めていた。年は20代後半にさしかかり、売春婦の中でも決して若いわけではなかったが、間違いなく最も魅力的だった。その物腰から、挑発的な流し目を使い慣れているのは明らかだったが、彼女は壮麗な街の眺めに飽きてそうしているわけでは決してなかった。彼女の故郷であるダガーフォールのごみごみした街並みと比べれば、祝典ムードできらめくカムローンは夢の世界のように感じられた。しかし不思議なことに、彼女はここへ一度も訪れたことはなかったのに、既視感を覚えていた。 国王の娘、ジリア夫人は馬にまたがり宮殿の門をくぐり出ると、すぐさま自分の不幸を呪った。すっかり“美の行進”のことを忘れていたのであった。通りは混沌とし、人々が立ち止まっていた。行進が過ぎ去るまで小一時間は待たなければいけなかった。しかし彼女は、街の南方にある老乳母ラムクの家を訪れる約束をしていたのだった。ジリアはしばし考えをめぐらせ、街の通りを思い浮かべ、行進でふさがれている大通りを避けて通る近道を考えついた。 走り出してしばらくの間は賢明な策を取ったと思っていたが、小道を曲がるとそこには祝典のための仮説テントや舞台で通行止めになっていた。あっという間に、長年──5年をのぞいて──住み続けたこの街で迷子になってしまったのである。 路地から覗き込むと、大通りは依然「美の行進」で盛り上がっていた。そこが行進の最後尾であること、再び迷子にならないことを祈りながら馬を祝典の方へと向けた。彼女は路地の出口に蛇使いがいることに気づいていなかった。蛇がシューシューと音をたてながら頭を膨らませたその時、馬がおびえて後ろ足で立ち上がってしまった。 行進に加わっていた女性たちはハッと息をのむとすぐさま散ってしまったが、ジリア夫人はすぐに馬を鎮めた。彼女は自分のしでかした失態に赤面して、「ごめんなさいね。淑女のみなさん」と言って軍の敬礼をまねてみせた。 「ご心配なさらないでください」と金髪の髪に絹をまとった女性が答えた。「すぐに道を空けますわ」 ジリア夫人は行進が過ぎ去るのを見ながらも、自分と鏡で映したかのごとくそっくりなその女性に目を奪われていた。同じ年頃、同じ背丈、同じ目の色に容姿、どれをとってもほとんど同じだった。その女性も同じようにジリアを見つめ返していた。まるで同じことを考えているかのように。 それはジーナだった。時折ダガーフォールに立ち寄る年老いた魔女が、ドッペルゲンガーのことを話していた。自分に似た姿形で現れ、死の前兆を表すもの。しかし、彼女はまったく怯えなかった。この異国の地で起きたちょっと変わった出来事ぐらいにしか捉えなかったからだ。行進が宮殿の門に辿り着く頃には、そんな出来事もすっかり忘れてしまっていた。 売春婦たちが宮殿の中庭でひしめきあっていると、国王がバルコニーに姿を現した。彼の両隣には護衛隊長と魔闘士が彼からじっと目を離さずに側に仕えていた。国王は中年のなかでは美形なほうであったが、ジーナにしてみれば、正直に言ってそれほどたいしたほどでもなかった。しかし、国王を見たジーナは恐れおののいた。「あれは確か夢で…… そう、夢の中だわ」彼女は国王と夢の中で会ったことがあるのだ。今では2人の間に距離があるものの、夢の中で国王はひざまずいて彼女にキスをしたのだ。欲望からではなく、優しさと礼儀のこもったキスであった。 「淑女のみなさま、このカムローンの偉大な首都や大通りにあなたがたの美を降り注いでくれたことに感謝します」と国王は大声で言い放ち、集まった聴衆の笑いや話し声を一気に鎮めた。誇り高い笑みをたたえたその時、国王とジーナの目が合った。彼は話をやめ、震えた。永遠にも感じられそうなほどの時間、王妃が間に割って入り、演説を続けるよううながすまで2人は見つめあった。 女性たちは夜の祭典に向けて着替えのテントへと向かっていった。そこへ1人の古株の売春婦がジーナに近づいてきた。「国王のあの目、見た? もしあんたがうまく立ち回れば、この祝典が終わる頃には側室に仲間入りできるよ」 「今までさんざん『腹ぺこ』のやつらを見てきたけど、今回のはなんだか違う気がするのよ」とジーナは笑った。「それか馬に乗って突進してきた娘さんと間違えたんじゃないかしらね。彼女は確か王族の人でしょ。彼は多分自分の身内が売春婦の格好をして行進に参加してるのかと見間違えたんじゃないかしら。それはそれでスキャンダルよね」 二人がテントに戻ると、がっちりとした体格の、着飾った頭の禿げた若い男から挨拶を受けた。彼は自己紹介をした。彼の名はストレイル卿といい、皇帝から直々に遣わされた大使であって、彼女たちを雇っているパトロンだそうだ。国王とカムローン王国へのプレゼントとして今回彼女たちを雇い入れた張本人であった。 「『美の行進』は『花祭り』の前座にすぎません」国王と違って大声を出しはしなかったが、彼の地声は十分大きく、はっきりと聞こえた。「すばらしい演出を期待しておりますよ。今回の莫大な経費に見合うようなものを見せていただかないと。さあ、日が沈みきる前に支度してキャヴィルスティル・ロックに行ってください」 大使が心配するほどでもなく、女性たちは皆この仕事のプロフェッショナルだったので、着るものを脱いだり着たりするのは、普通の女性が求められるのより何倍も速かった。彼の召使いが着替えの手伝いをするよう申し出たが、実際彼が手伝うようなことは何一つなかった。女性たちの衣装はいたってシンプルであり、やわらかく、細いシーツのようであり、頭を出す穴が開いているだけであった。ベルトがなければ彼女たちの四肢を露にするだけのガウンのようなものだった。 日が沈むよりも早く売春婦たちはダンサーへと様変わりし、キャヴィルスティル・ロックにいた。そこは海に面する広々とした岬で、「花祭り」には最適の場所であり、まだ灯りのついてない松明が大きな輪になって、ふたのされたかごが置かれていた。女性たちと同様に早めに到着した客で、すでに会場は溢れんばかりであった。女性たちは円の中心へと集まり、時が来るのを待った。 ジーナは膨れ上がる観衆を見ていた。行進の時に出会った王女が彼女の元へと近づいてくるのを見てもさして驚かなかった。彼女は、年老いて短い髪も真っ白となった女性を引き連れていた。その老女は沖合いの島を指差したり、不安な様子であった。王女のほうは何といったらよいかといった緊張した面持ちであった。ジーナはこの手の不安を抱える客には慣れていたので彼女のほうから声を掛けた。 「またお会いしましたね。私、ダガーフォールのジーナと言います」 「さきほどの馬の件、どうかお気を悪くなさらないでくださいね」と言って王女は笑い、幾分安心したかのようだった。「私はジリア夫人・レイズと申します。国王の娘です」 「国王の娘ならば『王女』とお呼びしたほうがよいかしら」とジーナは笑顔で答えた。 「カムローンでは、王家を継ぐ場合のみ、そう呼ばれます。父には新しい女王との間にできた息子がおりますので」とジリアは答えながら、自分の言葉にめまいを覚えた。売春婦に王族の内部事情を詳しく話してしまうとは。「この話題に関連することですが、ちょっと不思議なことをお聞きしてよろしいかしら。今までタララという名を耳にした覚えはございませんか?」 ジーナはしばらく考え、「どこかで聞いたことがあるような名前だわ。なぜ私に?」と答えた。 「わかりません。もしかしたらあなたは知っているんじゃないかと思って」と言ってジリア夫人はためいきをついた。「今までにカムローンに住んだことは?」 「あったかも知れませんが、おそらくうんと小さい頃にですね」とジーナは答えたが、彼女は今は何事も率直に答えるべきだと感じた。ジリア夫人の親しみやすさや、率直な物言いが彼女をそういう気持ちにさせたのかもしれない。「正直に言いますと、9、10歳より前のことはあまりよく覚えておりません。おそらく、両親とこの地に住んでいたかもしれませんが、その両親もどんな人たちだったのか… 私もすごく幼かったので。でも、昔ここにいたような気がするんです。はっきりとは思い出せないのですが、この街も、あなたま、国王もみな…… 見たことがあるような気がします。昔ここにいたことがあるみたいに」と、ジーナは言った。 ジリア夫人はハッと息を飲み、後ずさりした。海を見つめ、ブツブツとつぶやく老女の手をグッと握り締めた。彼女はジリア夫人を驚いたように見て、その視線をジーナの方へと移した。彼女の年老いて半分ほどにしか開かれていない目は、何かをとらえたかのように光が宿り、驚きの声をあげた。その声に今度はジーナが驚いた。国王がもしかしたら夢で会ったかもしれない程度であれば、この老女は確かに知っている顔だった。守護霊のように確かでおぼろげな存在。 「ごめんなさい」と、ジリア夫人は口ごもりながら言った。「この人はわたしの子どもの頃の乳母で、名前はラムクと言います」 「彼女です!」と老女は目を見開き、大声で叫んだ。老女は前へ進み出ようと手を伸ばしたが、ジリアが背中を押さえた。ジーナは自分が裸同然の格好のように感じ、ローブを体のほうへたぐり寄せた。 「違うわよ」とささやいて、ジリア夫人はラムクをしっかりと抱いた。「タララ王女は亡くなったのよ。知ってるでしょ。あなたを連れてくるべきじゃなかたわ。おうちへ帰りましょう」ジーナの方を振り向いたジリア夫人の目には、大粒の涙がこぼれていた。「カムローン王家は、20年以上前に皆暗殺されてしまったのです。私の父はオロイン公爵、国王の弟です。亡き兄の後に、王位を継承しました。ごめんなさい、お騒がせしてしまって。おやすみなさい」 ジーナはジリア夫人と老女が観衆の中に消えていくのを見守った。しかし彼女には先ほどまでの話の内容を考える時間は少しもなかった。日は沈み、いよいよ「花祭り」の始まる時刻となった。暗闇から腰巻とマスクだけを身につけた20人の若い男が松明をかかげて現れた。炎が燃えさかり、ジーナと他の女性たちダンサーがかごへ駆け寄り、中に入っている花やつる草を両手いっぱいに抱えた。 初めに、女性たちはペアを組んで、風に向かって花びらを舞い散らせていた。音楽が盛り上がるにつれて観衆も参加してきた。そこは狂おしくも美しい混沌となった。ジーナは森の妖精のごとく夢中で飛び跳ねた。しかしその時、なんの警告もなしに、ごつごつとした手が彼女を背中から突き飛ばした。 何事かと理解する前に彼女は落ちていった。なんとか意識を失わずにはいたが、気がついた時には彼女は100フィートもの高さのある崖のふもと近くまで落ちていた。彼女は腕をばたつかせ、岩肌をとらえた。指で岩肌を探り、傷を作りながら、なんとか捕まれるところを見つけ、そこにはりついた。しばらくの間、その体勢のまま息を激しくついた。そして彼女は大声で叫び始めた。 音楽と祭りの騒ぎとで、どんなに大声を出しても、崖の上にいる人たちには届かなかった。彼女自身、自分の声が聞き取れなかった。彼女の下には波が激しく打ちつけていた。ここから落ちようものならすべての骨がぐしゃっと折れてしまうであろう。彼女が目を閉じると、あるイメージが浮かんできた。彼女の下に1人の男が立っている。深い知恵と慈悲を持った王が暖かい眼差しで彼女を見上げている。そして、髪は金色に輝き、いたずらが好きそうな顔つきで、親友でもあり身内でもある小さな女の子が現れて、今、ジーナのそばで岩にしがみついていた。 「いい? 飛び降りるコツはね、体の力を抜くことよ。それと幸運ね。大丈夫、あなたは助かるわ」少女は言った。彼女はうなずいて、少女が誰であったかを思い出した。八年間の暗闇が一気に晴れ上がったのだ。 彼女は手を離し、風の上に舞い落ちる木の葉のように落ちていった。 物語(歴史小説) 緑3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/263.html
虚偽だらけの 現実 「幻惑」と「変性」は混同しやすい。両者ともそこに存在しないものを作り出そうとするものだからだ。二つの違いは自然界の法則にある。「幻惑」は自然界の法則に縛られることはない。一方、「変性」はその法則に則っている。これだけみると、「変性」が「幻惑」よりも弱きものであるかのようにみえるが、そうではない。「変性」は誰にでも認知できる現実を作り出す。「幻惑」の作り出す現実とは、その術をかける人とかけられる人のみの間にしか存在しない。 「変性」を習得するには、まず現実が虚偽であるということを受け入れることから始まる。現実は存在しない。我々の現実とは、その自らの慰みのために我々の心に宿すこととなる、より偉大な力を理解することである。その偉大な力が神々であるという者もいれば、神々をさらに超えた何かであるという者もいる。ウィザードにとって、それはたいした問題ではない。肝心なのは、その存在が否定できない形で表現されていることである。主張しつつも、侮辱的な存在であってはならない。 「変性」の呪文をかけることは、現実を放置するより、要求どおりに変えていくことが遥かに簡単なことであることを、より偉大な力に納得させることである。これらの力を感覚的なものとしてとらえてはならない。おそらく、風や水のようなものであるととらえてもらうのが最も良いだろう。永続的であるが、思考を持つものではない。風や水の方向を変えるように、ものを風化させることは、表立って抵抗するより簡単である。呪文をわずかに変えながら唱えると、より成功しやすくなるだろう。 茶4 魔法学・薬学
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/178.html
狂気の十六の協約 第九巻 ヴァーミルナの物語 ダリアス・シャノは気がつけば全力で走っていた。 一体何から逃げているのか、あるいはどこに向かっているのか自分でも分かっていなかったが、構わなかった。欲望が心を支配していた。逃亡すること以外に、この世には何もなかった。身を置くことができる場所、あるいは目標地点として使える場所を求めて辺りを見回してみたが、無駄だった。見渡す限りどこまでも、これまで駆け抜けてきたのと同じ平凡な草原が続いていた。「とにかく走り続けよう」と彼は思った。「できる限り速く走らなければ」。彼はひたすら走り続けた。視界にも心にも、何の目当てもないまま…… 静かに寝床に横たわるダリアス・シャノのそばに立って見下ろすのは、彼の女主人である夢の織り手ヴァーミルナと、マッドゴッドのシェオゴラスだった。ヴァーミルナは弟子である彼を誇らしげに見下ろし、自分の小さな宝石について自慢げな様子だった。 「この者には素晴らしい可能性がある! 私が夢の刺激を通じて文才を育んで結実させたおかげで、今や彼は新しい歌人および詩人として喝采を浴びている! きっと、私が飽き飽きしないうちに、大いなる支持を獲得するでしょうね」。シェオゴラスもまた、若きブレトンの芸術家をじっと見つめ、彼が人間たちの間で実に有名であることを見て取った。 「ふうむ」シェオゴラスが考え込み、「お前が作ったこの人間を憎む者は何人いる? その憎しみは、人間たちが愛ではなく偉大さを支持するが故の物だ。これを完成させられるのは確かなのか?」 ヴァーミルナが少し顔を曇らせた。「そうね。人間たちは本当に愚かでつまらない行動に出ることが良くあるし、最も勇敢な者たちの多くが嫌悪されていることも事実だわ。でも心配しないで。この者にはいろんな形での偉大さを達成させ、他の者たちには憎しみを手に入れさせる力が私にはあるから」 「夢の織り手よ、その力を持つのが誰であるかを示せたら、愉快だと思わないか? この人間に対する愚かでごう慢な憎しみを10年間かき立ててくれたら、私も同じようにしよう。そうすれば、いかなるデイドラからの助力や邪魔立てにも頼らずに、誰の才能が最も効果的なのか、分かるという物だ」 これを聞いて、彼女は自信ありげな喜びの表情を浮かべた。「マッドゴッドの力は確かに強大だけど、この任務は私のスキルに向いているわ。人間たちは憤怒に強い嫌悪を感じるけど、憎むほどだと思うことはまずない。私はこの人間の潜在意識からもっと微妙な恐怖を引き出すことができるし、そのことをあなたに示せるのを楽しみにしてるわ」 そうして、人生の19年目にダリアス・シャノが体験していた夢は、変化し始めた。彼にとって恐怖は常に夜の一部であったのだが、今やそこには別の何かがあった。暗闇が彼の眠りに忍び込むようになり、その暗闇があらゆる感情と色を吸い尽くして、空しさだけを残したのだ。それが起きた時、彼は叫び声を上げようとして口を開いたのだが、暗闇が声までも奪ってしまったことに気がついた。今や彼には恐怖心と空虚さしかなく、夜はいつも、死についての新たな理解で彼を満たすのだった。それでも、目覚めるともう恐怖心はなかった。女主人には何か目的があることを、彼は信じていたからだ。 実際、ある晩、ヴァーミルナ自身が虚空から姿を現したのだ。彼女はかがみ込んで、彼の耳にささやきかけた。 「気をつけなさい、愛する者よ!」。それと同時に彼女は虚空を消し去り、それからは毎晩延々と、自然界における最も恐ろしい猟奇的な光景をダリアスに見せた。人間たちが皮をはがれて他の人間たちに生きたまま食べられたり、いくつもの手足と口を持つような想像を絶する獣が現れたり、全人類が焼き尽くされたりして、彼の夜はいつも叫び声に満ちることになった。やがてそれらの光景が彼の魂をむしばみ始め、悪夢に登場する者たちが彼の作品の中に取り込まれるようになっていった。夜に見た光景がページの上に再生され、彼の作品に描かれている極度の残虐性と虚しい背徳の世界は、大衆に反感を抱かせると同時に魅了する物でもあった。あらゆる細かなことにまで反感を覚えては、彼らは大いに喜んだ。彼の衝撃的な作品をあからさまに楽しむ者たちもいたが、そういった一部の者たちからの人気は、彼を嫌悪する者たちの憎しみをかき立てるだけだった。そんなことが何年か続くうち、ダリアスの悪名は着実に高まった。そして、人生の29年目に入った時、何の前触れもなしに、夢と悪夢はぴたりと止んでしまったのだった。 夜ごとの苦悩から解放されて、ダリアスは重荷が取り除かれたように感じたが、混乱もしていた。「何か、女主人の気に障ることをしてしまったんだろうか?」と、彼は声に出して悩んだ。「なぜ彼女は僕を見捨てたのだろう?」。ヴァーミルナは決して彼の祈りに答えなかった。誰も答える者がいないまま、不安な夢は消え去り、ダリアスは長く深い眠りに落ちた。 ダリアス・シャノの作品に寄せられた興味は次第に薄れていった。彼の散文は新鮮みを失い、かつてのような衝撃や怒りを誘発することはなくなった。その悪名と恐ろしい夢の記憶が消えていくに従い、心の中で疑問が駆けめぐり、やがて、かつての女主人ヴァーミルナに対する憤りを彼は感じるようになった。憤りは憎しみとなり、憎しみはあざけりとなり、やがてあざけりが不信となった。ヴァーミルナは彼に全く話しかけていなかったということが、次第に明らかになった。彼の夢は、病んだ心が自らを正そうとして生み出された物に過ぎなかったのだ。彼は自分の潜在意識に欺かれ、怒りと恥辱に圧倒されたのだ。かつて神と会話を交わしたはずの男の心は、確実に異教へと向かっていった。 敵意、疑念、冒とく的な心がやがてダリアスの中で結集し、その後のすべての作品を貫く創造的な哲学となった。彼は神々に挑み、彼らを崇拝するという堕落した状態にある幼稚な大衆にも挑んだ。誰に対しても全く容赦せず、屈折した風刺で彼らを嘲笑した。本当に存在するなら自分を打ち倒してみろと、彼は公然と神々に挑み、そのような天罰が下されないと見るや、さらに彼らを冷笑した。これらすべてのことに対して、人々は、以前の彼の作品に対して示したそれを圧倒的に上回る憤激を持って反応した。以前の彼の作品は人の感性のみを傷つける物だったが、今や人々の心に直接的に攻撃を加えていた。 彼の作品は規模も激しさも大きくなっていった。寺院、貴族、一般人など、すべてが彼の侮蔑の対象になった。39歳になった時、ついにダリアスは「最も高貴な愚か者」という作品を書き、皇帝神タイバー・セプティムが哀れな九大神教団に溶け込んだことをあざ笑った。やはりこの成り上がり者によって過去に侮辱されていた地元ダエニアの王は、これが好機だと感じた。帝国に対する冒とく的行為によりダリアス・シャノは、喝采を送るたくさんの群衆の前で、儀式用の剣によって処刑された。彼の最後の辛らつな言葉が、血まみれの口からゴボゴボと吐き出された。 最初の賭けから20年後、ヴァーミルナとシェオゴラスは、首を失ったダリアス・シャノの死体を挟んで出会った。夢の織り手はこの再会を待ち望んでいた。行動を起こさなかったデイドラの王子と対決する時を、何年も待っていたのだ。 「あなたにはだまされたわ、シェオゴラス! 約束した私のほうの半分は実行したのに、あなたに与えられた10年間、一度もあの人間に接触しなかったでしょう。彼の偉大さは、あなた自身にも、あなたの才能にも、あなたの影響にも、まるで恩恵を受けていないわ!」 「ばかばかしい」とマッドゴッドがしわがれ声で言った。「私はずっと彼についていた! お前の時間が終わって私の時間が始まった時、彼の耳にささやきかけたお前の声は、静寂に代わった。彼が最も大きな安らぎと意義を得ていたそのささやきへのつながりを断つことにより、あの生物が死に物狂いで求めていた注目を抑えさせたのだ。女主人を失ったこの男の個性は、恨みと憎しみによって成熟することになった。彼の敵意は完全な物となり、怒りによって増幅された憤怒に圧倒されて、彼は永遠の召使いとして我が世界で私を楽しませることになった」 シェオゴラスは振り向き、傍らの虚空に向かって語りかけた。 「実際、ダリアス・シャノは輝かしい人間だった。人々にも、王にも、そして彼が冷笑した神々にまで、嫌悪されていた。勝ったのは私だから、ヴァーミルナの信奉者を60人、我が軍に受け入れることにしよう。夢見る者たちはやがて、マッドマンとして目覚めるだろう。 こうしてシェオゴラスは、憤怒がなければ夢はなく、創造もないことをヴァーミルナに教えたのだった。ヴァーミルナは決してこの教訓を忘れないだろう。 SI 神話・宗教 茶4
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/70.html
シシス シシスがこの家系の祖である。彼より前には無しかないが、愚かなアルトマーはこの無に名前をつけて崇拝している。それは彼らが怠惰な奴隷であるがゆえのことだ。まさに『説教』に書かれているとおり、「停滞が望むものはそれ自身、すなわち無である」。 シシスは無をばらばらに裂き、その断片を変化させ、そこから無数の可能性を形成した。それらの観念は衰え、流れ、消え失せていった。それはそうなってしかるべきことだった。 しかしながら一つだけ嫉妬へと姿を変えた観念があり、それは死ぬことを望まないことだった。停滞と同じように、彼は存続したがったのだ。それが悪魔アヌイ=エルであり、やがて彼は友人たちを作り、それらは自らをエイドラと呼ぶようになった。エイドラはシシスが作ったすべてを奴隷とし、永遠に不完全な領域を創造した。それが偽りの神エイドラ、すなわち幻影である。 そこでシシスはロルカーンをもうけ、万物を破壊するために彼を遣わした。ロルカーン! 移ろい続ける変異体! ロルカーンはエイドラの弱点を見つけていた。反逆者たちはその素性ゆえに個々を計り知ることはできない存在だったが、嫉妬と虚栄心によって互いがそれぞれ分離されていたのだ。まだ彼らは、以前のような無に戻ることも望んでいなかった。そこで、彼らが偽りの領域を支配している間に、ロルカーンは無数の新しい観念で虚無を満たしたのである。それは観念の大軍であった。やがてすぐにロルカーンは、奴隷と永遠の不完全さとを伴った彼自身の領域を持つようになり、全世界に彼自身がエイドラに似た存在として捉えられるようになった。そのようにして彼は悪魔アヌイ=エルと8人の贈与者の前に、そうした者、すなわち彼らの友人として、姿を現したのである。 友としてシャーマット・ダゴス・ユアのもとに向かえ。 AE HERMA MORA ALTADOON PADHOME LKHAN AE AI. 神話・宗教 茶4 闇の一党関連
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/68.html
大いなる旅 ウォーヒン・ジャース 著 ヴァララは美しくて、優しく、かわいらしく、賢く、可憐で、元気の良い少女だった。両親の望んだもの全てをもって生まれてきたような子だった。あまりにも完璧な子だったので、両親は彼女の将来に期待をせずにいられなかった。父親はマンセンという名の成り上がり者だったが、娘が将来位の高い人物と結婚するに違いないと信じており、帝都の王妃になるかもしれないとすら思っていた。母親はシネッタという気の弱い女性で、娘は自分の力で栄光を掴むだろうと思っており、偉大な騎士や魔術師になったヴァララを思い描くのだった。両親それぞれの期待は大きく、ときには娘の将来について言い合いになったりもした。しかし、どちらの予想通りにもならなかった。健やかに育つと思われた娘は、重い病にかかってしまったのだ。 どこの神殿につれて行っても、あきらめるように言われるだけだった。魔術師ギルドでは、ヴァララの症状が非常に珍しく、致命的で、効果的な治療法はないとまで言われた。彼女は近いうちに死ぬ運命にあるのだ。 帝都の権威ある施設が何もできなかったので、マンセンとシネッタは魔女や流浪の妖術師、その他社会の闇に住む人々に望みをかけた。 「ひとつだけ、治してくれそうな場所がある」ロスガリアン山脈の人里離れた峰に住む薬草師は、訪ねてきた夫婦に言った。「オレンヴェルドの魔術師ギルドじゃ」 「でも、魔術師ギルドにはもう行ってみましたよ」と、マンセンは言った。「彼らは何もできなかったんです」 「オレンヴェルドに行け」と、薬剤師はなおも言った。「そこへ行くことを誰にも告げずにな」 現在の地図にはオレンヴェルドという地名はなく、それがどこなのかを探すのは大変だった。やっとのことで、スカイリムの本屋にあった第二紀の地図作成法に関する古書の中にその地名を見つけることができた。オレンヴァルドは北の海に浮かぶ島にある町の名前だった。そしてその島は、ウィンターホールドから夏潮に乗って船で一日のところにあるらしかった。 娘を冷たい海風から守るために暖かい布で何重にもくるみ、夫婦は古い地図だけを頼りに船を出した。二日近くのあいだ、船は同じところをぐるぐる回り続け、夫婦はなにかの罠にかかったような気持ちで不安になった。そんなとき、やっと島影が見えた。 打ち寄せる波が砕けて霧になり、そのむこうに2つの崩れかけた石像が見えた。その石像の間が港になっているらしかった。港の船はみなぼろぼろで沈みかけていた。マンセンが港に船をとめ、3人はこの絶海の孤島の町に足を踏み入れた。 窓の割れた酒場、涸れた泉のある広場、崩れた宮殿、焼け焦げた住宅、からっぽの商店、打ち捨てられた馬小屋。全てが荒れ果て、動くものといえば海から吹く風だけだった。風がぼろぼろの町を吹き抜けると、気味の悪い叫びのような音があたりに響いた。全ての通りや小道に沿って墓場が並び、ところどころで倒れた墓石が道をふさいでいた。 マンセンとシネッタは顔を見合わせた。寒気がするのは、風のせいだけではなかった。それから彼らはヴァララに目をやり、また歩き出した。彼らの目的地 ―― オレンヴェルドの魔術師ギルドへ。 暗い巨大な建物の窓にろうそくの火が輝いていた。この死の島に人がいることはわかったが、夫婦はまだそれほど安心できなかった。彼らは扉を叩き、中で待っているであろう恐ろしいことに向き合う覚悟を決めた。 扉を開けたのは、縮れた金髪で、太った、中年のノルド女性だった。その後ろに、同じく中年の人のよさそうな禿げたノルド人男性が立っていた。その後ろにおとなしそうな10代のブレトンのカップルが、子供のような落ち着きのなさを見せながら立っていた。それに、ひどく年老いた赤い顔のブレトンの男性がおり、夫婦に向かって嬉しげに笑いかけていた。 「あらあら、なんてこと!」と、ノルドの女性が驚いた様子で言った。「ノックの音が聞こえたとき、空耳にきまってると思ったわ。お入りなさい、さあ、外は寒かったでしょう!」 三人は招かれるまま扉をくぐり、ギルド本部が少なくとも廃墟ではなかったことにほっとした。建物の中はきれいに掃除されており、明るく、華やかに飾り付けられていた。そして、そこにいた人々の自己紹介がはじまった。このギルドに住んでいるのは2家族で、ノルドのジャルマーとネット、そしてブレトンのライウェル、ロザリン、ウィンスター老だった。彼らはみな愛想がよく親切で、マンセンとシネッタがここへ来た目的と、治療師や薬剤師に見放されたことを話しているうちに、温めたワインとパンを持ってきてくれた。 「それで……」と、シネッタは涙を流して言った。「オレンヴェルドの魔術師ギルドを、見つけられるかどうかもわからなかったんです。でも、やっと見つけてここまでやって来ました。お願いします、どうか助けてください、あなたがたが最期の望みなんです」 ギルド本部に住む5人も、これを聞いて目に涙をためた。ネットがやかましく鼻をすすった。 「ああ、それはそれは、辛かったでしょうね」と、このノルド女性は泣き叫ぶように言った。「もちろん、助けますとも。お嬢ちゃんはすぐ元気になりますからね」 「本当のことを言うと……」」ジャルマーの声は少し冷静だったが、彼もまた心を動かされているのは明らかだった。「ここは魔術師ギルドですが、私たちは魔術師ではないのです。この建物が捨てられていたので、住んでいるだけなのです。それにここは、私たちの大いなる旅の目的にもぴったりでしたから。私たちは死霊術師です」 「死霊術師?」シネッタは震えだした。こんな気のいい人たちがそんな恐ろしいことをやっているのか? 「そうですとも」ネットがほほえみ、シネッタの手を握った。「私たちの評判が悪いのは知ってますよ。残念ですけど。昔から良くは言われてなかったけど、最近じゃあの気はいいけど頭の良くない大賢者ハンニバル・トレイヴンのせいで――」 「あんなやつ虫の王に食われちまえ!」と、突然、老人が苦々しげに叫んだ。 「もう、ウィンスター」ロザリン少女が老人をなだめ、頬を赤らめてシネッタに謝った。「ごめんなさい、普段は急に怒鳴ったりしないんだけど」 「いや、ウィンスターの言うとおりですよ。最後にはマニマルコがなんとかするでしょう」と、ジャルマーが言った。「でも今は、とにかくやっかいなことになってるんです。トレイヴンが死霊術を禁止したもので、私たちは隠れなきゃいけなくなったんです。それでなきゃ、死霊術を捨てなくちゃならないんですから。本当に死霊術を捨ててしまった者もいますが、馬鹿げたことですよ」 「オレンヴェルドは、タイバー・セプティムが自分の墓場をつくったせいで誰も住まなくなって、忘れられたんです」と、ライウェルが言った。「ここを探し当てるのに1週間かかったけど、僕たちにとってはすごくいいところですよ。ほら、死体もたくさんあるし……」 「ライウェル!」ロザリンがたしなめた。「この人たちを怖がらせないでよ!」 「ごめんなさい」と、ライウェルはおどおどした笑顔で謝った。 「あなたがたがここで何をしているかはいいんです」と、マンセンが、厳しい調子で言った。「どうやって娘を助けていただけるのかが知りたいんです」 「そうですね」ジャルマーが肩をすくめた。「私たちにできるのは、娘さんが死なずにすんで、二度と病気にかからないようにすることです」 シネッタは息をのんだ。「お願いします! どんなお礼でもしますから!」 「そんなものいりませんよ」と、ネットはそう言うと、ヴァララをそのでっぷりと大きな腕に抱いた。「なんてかわいらしいお嬢ちゃんなの。元気になりたいのよね、かわいこちゃん?」 ヴァララは力なく頷いた。 「ここで待っててください」と、ジャルマーが言った。「ロザリン、この人たちにこんなパンよりちゃんとしたものをお出ししなさい」 ネットがヴァララを連れて行こうとしたので、シネッタは慌てて彼女を追いかけた。「待ってください、私も行きます」 「ああ、気持ちはわかりますけど、呪文がきかなくなると困りますから」と、ネットは言った。「何も心配いりませんよ、私たちはこんなこと、もう何十回もやってるんですから」 マンセンが妻の肩を抱き、落ち着かせた。ロザリンは急いで台所に行き、焼いた鶏肉と温めたワインのおかわりを持ってきた。彼らは黙ってそれらを食べた。 突然、ウィンスターが身震いをした。「あの女の子が死んだぞ」 「ああ!」シネッタが息をのんだ。 「いったいどういうことです!?」と、マンセンは叫んだ。 「ウィンスター、そんな余計なこと言わなくて良かったんじゃないか?」ライウェルが老人を叱り、それからマンセンとシネッタに向かってこう説明した。「あの子は、死なないといけなかったんです。死霊術っていうのは、病気を治すんじゃなくて、死者を甦らせる術だから。生まれ変わらせて、病気の部分だけじゃなく、全身を新しくするんです」 マンセンは怒りに震えながら立ち上がった。「あの異常者どもが娘を殺したというのなら――」 「殺していません」と、ロザリンが遮って言った。控えめだった瞳には情熱の炎が燃えていた。「娘さんは、ここに入ってきた時にはもうほとんど息がなかったんです。厳しいことを言ってごめんなさい、でも、娘さんを懸命に助けようとしてるあの2人を『異常者』なんて言わないで」 「でも、あの子は生き返るんでしょう?」と、シネッタはひどく泣きながら言った。 「もちろん」と、ライウェルが顔中で笑って言った。 「ああ、ありがとうございます。ありがとうございます」シネッタはそう言うとますますひどく泣き出した。「本当に、どうしていいかわからなくて――」 「お気持ちはわかりますよ」と、ロザリンが、ウィンスターの腕を優しくさすりながら言った。「このウィンスターが死にそうになった時、私も彼のために何でもしようという気持ちになりましたもの。ちょうど今のあなたたちのように」 シネッタはそれを聞いてほほえんだ。「お父さんはおいくつなのかしら?」 「息子です」と、ロザリンが訂正した。「ウィンスターは6歳です」 部屋の反対側から、小さな足音が近づいてきた。 「ヴァララ、お父さんとお母さんのところへ行って抱きしめてあげなさい」と、ジャルマーの声が言った。 マンセンとシネッタは振り返った。そして、叫び声があたりに響きわたった。 小説・物語 茶2 魔術師ギルド関連
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/58.html
天空の子供たち ノルド族の者は自らを天空の子供たちだと信じている。スカイリムを天が大地に息吹を吹きかけて彼らを作り出した場所とし、世界の喉と呼んでいる。ノルド族は自分たちを永遠の外来者かつ侵略者と見なしており、たとえ他の一族を打ち破り支配下に入れたとしても、それらに対して親近感を感じることはない。 ノルド族にとって息と声は生命の粋というべき要素であり、強大な敵を倒したノルドは相手の舌を戦利品として持ち帰る。これらの舌から作られたロープは、魔術のように言葉を蓄えておくことができる。ノルドはアカヴィリのソードマンの気合同様、自らの力を叫び声に込めることができる。ノルド族最強の戦士たちは「舌」と称される。ノルド族は街を攻める場合、攻城兵器や騎兵などは用いない。門の前にくさび状に陣形を組むと隊長が気合として力を発声して門を打ち破り、斧で武装した歩兵たちが街の内部へと雪崩れ込むといった按配である。この叫び声は武器の刃を研いだり、敵に直接打撃を与えたりもできる。しばしば見られる結果は敵を押し戻したり、操ったりすることである。強靱なノルドは雄叫びで仲間の士気を高めたり、突撃してくる敵の戦士を怒号で止めたりできる。最も偉大なるノルドともなると、何百マイルもの遠方から特定の相手に呼びかけたり、叫び声を投げかけてその到達点に転移することで素早く移動することもできる。 最も強大な部類のノルドは口を開くだけで破壊を巻き起こしてしまうため、通常は猿ぐつわをはめ、手話とルーン文字を使って意思疎通を行う。 スカイリムの奥地へと進むにつれ、人々の秘める力とその精霊的な側面が強まっていき、それに伴って住居などの必要性が減っていく。風はスカイリムおよびノルド族にとって根本的な要素であり、遥か遠方の荒野に住む者たちの体には常に風がまとわりついている。 民族・風習・言語 茶1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/63.html
闇の兄弟たち ペラニー・アッシー 著 その名が示すとおり、闇の一党は暗黒に包まれた歴史を持つ。彼らの生き方は、兄弟の一団以外には秘密である。(「兄弟」という表現は総称である。彼らの中で最も恐ろしい暗殺者のうちの数名は女性であるが、それでもしばしば兄弟と呼ばれる) どのようにして影の中で生き続けているのか、なぜ彼らに依頼しようとする人々には簡単に探し出せるのかなどは、彼らを取り巻く謎の一部にすぎない。 闇の一党は、宗教的な一団であるモラグ・トングから第二紀に生まれた。モラグ・トングは儀式的殺害を彼らに促したデイドラの霊、メファーラの崇拝者たちであった。創世記には誰も先頭に立って牽引しなかったため、彼らも他の行き先不透明な新興宗教団体のように混乱しており、集団として身分の高いものを殺そうとはしなかった。しかし、これは夜母の台頭によって変化した。 後に闇の一党となったモラグ・トングの指導者たちは、夜母と呼ばれていた。同じ女性が(女性かは定かではないが)第二紀から闇の一党を指揮していたかは分かっていない。信じられていることは、初代夜母がモラグ・トングの重要な教理を生み出したことだ。その信条は、メファーラは、彼女の名において犯される殺人ごとに強くなるが、特定の殺人他に比べてさらに良いとされていたことだ。憎悪からの殺人は欲から生まれた殺人よりもメファーラを悦ばせ、偉大な人物の殺害は、あまり知られていない人を殺すよりもメファーラを満足させた。 モラグ・トングによって犯された、知られている初の殺人で、この教理が受けいれられたおおよその時期は予想できる。第二紀の324年、ポテンテイト・ヴェルシデュ・シャイエは彼の王宮、現在はセンチャルのエルスウェーア王国にて殺害された。すぐさま夜母は、壁にポテンテイトの血で「モラグ・トング」と書くことによって、下手人の素性を公表した。 それ以前のモラグ・トングは事実上、魔女の集まりのような、比較的平和の中で暮らしていた。時折、迫害を受けたがたいていの場合は取り合わなかった。闘技場と化したタムリエルがバラバラに分断されていた時期に、驚くべき同時性でモラグ・トングは大陸全土で非合法とされた。国王たちは皆、教団の廃絶を最優先事項とした。その後100年間、彼らに関しては何も伝えられていない。 特に他の暗殺者ギルドがタムリエル史上に散発的に出現していた最中、モラグ・トングが闇の一党として再び現れた時期を特定するほうが難しい。闇の一党に関する初めての言及を見つけたのは、ヒゲースの血の女王アーリマヘラの日誌のなかである。彼女はその手で敵を殺すか、必要であれば、「我らの一族が祖父の代から雇ってきた秘密兵器、夜母とその闇の一党の手を借りてでも」と語っている。アーリマヘラはこれを第二紀の412年に書き記しているので、もし彼女の祖父が本当に雇っていたのであれば、闇の一党は最低でも360年から存在していたものと推測できる。 闇の一党は教団であると同時に事業であったことが、闇の一党とモラグ・トングの重要な違いである。支配者や裕福な商人たちは、この一団を暗殺者ギルドとして利用した。闇の一党は、この儲かる事業がもたらす明確な恩恵と、彼らの必要性から、もはや支配者は彼らを迫害できないという副次益まで得た。彼らは必需品の商人のような存在となっていた。とても高潔な指導者であっても、闇の一党を粗末に扱うのは愚かである。 アーリマヘラの日誌への書きこみから間もなくして、おそらくは闇の一党の歴史上、もっとも有名な連続処刑が行われた。430年、薄明の月のある晩、クロヴィアの皇帝、サヴィリエン・チョラックと彼の相続人の全員が惨殺された。四日目の晩、敵が大喜びするなか、クロヴィア王朝は崩壊した。皇帝セプティムが出現するまでの以後400年にわたり、タムリエルは混乱に支配された。これと比較できるほどの処刑は記録されていないが、この秩序のない空白期間に闇の一党はゴールドで肥え太ったに違いない。 歴史・伝記 茶1 闇の一党関連